大阪高等裁判所 昭和32年(う)1416号 判決
所論は要するに、公衆浴場法第二条二項後段は、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠くと認められる場合には、都道府県知事は公衆浴場の経営を許可しないことができる旨定めているが、公衆浴場の経営に対するかような制限は、公共の福祉に反する場合でないのに職業選択の自由を違法に制限することになるから、同条の規定は憲法第二二条に違反するものであると主張するのである。しかし公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる、多分に公共性を伴う厚生施設であつて、若しその設立を業者の自由に委せて、何等その偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用することを不能又は困難ならしめるおそれなきを保し難く、また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理ならしめ、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれなきを保し難い。このようなことは、上記公衆浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望ましいことであり、従つて、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在乃至濫立を来たすに至るが如きことは、公共の福祉に反するものであつて、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設けることは、憲法第二二条に違反するものとは認められない。(昭和三〇年一月二六日最高裁判所大法廷判決、判例集第九巻第一号八九頁参照)所論において縷述するところは、独自の見解に立つて、右判断と相反する主張をなすものであつて、到底採用することはできない。
同第二点について、
所論は要するに、多数国民の日常生活に欠くべからざる、厚生、娯楽、文化の施設としては、公衆浴場の外に、病院、診療所、学校、劇場、映画館、百貨店、市場、旅館等数多くあり、そのいずれも公共の福祉に多大の関係をもつものであるが、これ等経営の許可基準を見ると、公衆浴場経営の場合のようにその設置場所の面より規制しているものはない。独り公衆浴場を経営せんとする者に対してのみ、公衆浴場法第二条二項後段によつて、設置場所が配置の適正を欠くと認める場合に許可を制限するのは、明らかに前示他の施設の経営をなさんとする者と差別して、不利益な取扱いをなすものであつて、同条の規定は憲法第一四条に違反すると主張するのである。なるほど、医療法第七条、私立学校法第三〇条、第三一条、興行場法第二条、百貨店法第二条、第五条、中央卸市場法第二条、第一〇条、旅館業法第三条等によれば、病院、学校、劇場、映画館、百貨店市場、旅館等の施設経営につき、所論のとおりその設置場所の点よりその許可を制限していないけれども、これはそれらの施設の目的、性格にかんがみ公共の福祉維持の上から当然のことであり、公衆浴場の経営許可においては、その設置場所の面よりこれを規制するについて合理的の理由があることは第一点について説明したとおりである。而して憲法第一四条第一項所定の法の下に平等の原則は、法律上のあらゆる差別を禁止する趣旨ではなく、合理的な理由による合目的的な差別的取扱を妨げるものでないのであるから、前記の如き合理的な理由に基いて設置場所の面から公衆浴場経営の許可を規制した公衆浴場法第二条第二項後段の規定は憲法第一四条の規定に背反するものではない。
(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 武田清好 判事 小川武夫)